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藤四郎のひつまぶし

プロの素人によるブログ

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ベストセラーライトノベルのしくみを客観的に分析した良書

本書が論じるのは、ベストセラー・ライトノベルという顧客満足(customer satisfaction)を第一にした文芸、すなわち「カスタマー・サフィスフィクション」(customer satis-fiction)である。顧客ニーズを意識し、読者を喜ばせてリピーターに変え、ときに詠み手と作家とが共創することで莫大なキャッシュフローを生み出す創作が、カスタマー・サフィスフィクションである。プロダクトアウト、シーズ志向型の作家のひらめきを重んじた創作として着目するというよりも、マーケット・イン、ニーズ志向型で読者を喜ばせることに重点を置いた創作技法を、解読し、ツール化し、フレームワークにする。
P22より

ベストセラーライトノベルのしくみが面白かった。
本書はまず読者が何を求めているかを「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因」の4つだと分析し、ベストセラーライトノベルはそれをどう満たしているか、と章を進めていく。
各章では個別の作品を同じツールで分析することで作品の特徴を浮き彫りにしていく。

本書は個別作品の分析だけにとどまらない。
顧客であるオタクの特徴や変化、今後予想される社会制度の変化や技術革新の影響、ライトノベルがマンガやアニメに対して「商品」として優れている部分とメディアミックスの関係などの分析も行われている。

オタクの特徴と変化については岡田斗司夫大塚英志らを参照した上で現代の中高生への取材も行っている。エヴァ破への反応の違いやコンテンツの消費のされ方の変化は今ライトノベルボリュームゾーンになっている十代の実像を捉えているように思える。また周辺環境についても業界規模や価格、原価などの具体的な数字を交えながら十分な分量が割かれている。

このように本書は個別作品と顧客、環境総ての分析で、実物にあたり、体系的にまとめる姿勢が貫かれている。この姿勢がそれぞれの分析を補強しあい、客観性と具体性を合わせ持つライトノベル批評を作り上げている。

この厚みのある分析の背景には、筆者のライトノベルレーベル編集者としての経験と、過去、現在とオタクとしての活動を続けている*1があるのだろう。

本書はベストセラー・ライトノベルのしくみというタイトルが現すとおり、ベストセラー以外の作品を対象としていない。さらに女性向けライトノベルも対象にしていないため、ライトノベルの裾野、懐の広さについてはもっと言及できる部分がある。
しかし現在と今後のライトノベルのメインストリームを知る・予想するにはうってつけの本だ。

また基本的には固めの文体でありながら、とある魔術の禁書目録上条当麻を文中では「上条さん」と統一したり、「俺TUEEE」といった単語を利用したりと「わかっている」本だとも思う。
一般文芸に対してやや「使い捨て」な印象を持たれがちなライトノベルに「商品価値」の面でのメリットや、「長期シリーズ物」として顧客と付き合っていく側面からの反論を試みていたりと愛にあふれた本という印象を受けた。

「ベストセラー」ライトノベルとは何か知りたい人、「商品」としてのライトノベルを知りたい人、出版を始めとするライトノベル周辺の「業界」を知りたい人にはぜひ勧めたい。

*1:あとがきで坂本真綾マクロスのファンクラブに入っていることが書かれている