藤四郎のひつまぶし

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新たな生き方を模索する物語KAPPEI


KAPPEIノストラダムスに予言されたこの世の地獄とも言える1999年7月に向けて、人類を救うべく修行していた主人公、勝平たちが、2011年に突如師匠に解散を宣言されたところから始まる物語です。
解散の年からもわかるように世紀末になったわけでもない日本に放り出された主人公の勝平は、チンピラに絡まれた大学生の青年を持ち前の正義感によって助け、そこから大学の仲間たちと交流を深めていくことになります。

KAPPEIは自分の信じていた生き方が通用しない世界で、どのように生きていくかをコミカルに描いた作品といえるでしょう。

自分の常識が通用しない世界

勝平たちは生まれた時から無戒殺風拳という拳法の修行に明け暮れ、行動原理も無私無欲、弱きを助け強きをくじくといった、世界の終末で救世主であるように、と育て上げられました。
そのため現代日本の一般常識とはかなりのズレがあります。
イメージとしては小説、フルメタル・パニックで、幼少から戦場で生きてきた相良宗介が平和な日本の高校に千鳥かなめの護衛任務のため入学してきたのに近いとも言えるでしょう。

ただ違うのはフルメタル・パニックにおいて相良宗介は実際に中東の紛争地帯で実践の経験があり、また現実の脅威がかなめや宗介を襲うところです。
勝平にはそのような経験もなければ、いきなり世の中が崩壊する可能性も(0ではないかもしれませんが、ほぼ)ありません。
高い倫理観を持ち合わせた勝平は現代社会とのギャップに苦しみながら、ときに頓珍漢な、ときに正義感あふれる行動をすることになります。

しかし勝平と一緒に修行してきた仲間が全員そうだとは限りません。
それまでの彼らのアイデンティティ、世界の終末で救世主として行動することは、世界が終末を迎えそうにないことでかなり危うい状況になります。
他の価値観を知らなかった彼らは現代社会に生きる人々に触れて、別の思想に感化されるものも出てきます。

一人は自分が世界の終末でしか生きられないならば、自分で世界の終末を作ればいい、と勝平に説きます。
これは警察が必要とされるためには犯罪が必要になる、軍隊が必要とされるためには戦争、あるいは敵が必要になると言った話にも結びつきます。

一人は歌に感銘を受け、中学校の暴走族に身をやつします。
平和な世の中になって自らの力を必要とされなくなった者の姿は、戦国時代の終わりでそれまで戦場で活躍していた大名が領地経営に失敗して改易されていく姿や、大阪夏の陣で豊臣方について散っていった姿にも重なって見えます。

これらはなにも一部の職業や歴史の転換点にだけ見られる特別なものではありません。
自分が培ってきたスキルが突如必要とされなくなる場面というのは、手書きの技術がデジタル化によって時代遅れにされるなど、どのような業界でもあり得る話です。

自分のスキルが必要とされなくなる、あるいは自分の生き方が通用しなくなった時、果たして人はどうすべきかという葛藤がKAPPEIにはあります。
ただKAPPEIギャグマンガであり、ラブコメマンガです。上で述べたテイストはあくまでプリンにかかっているカラメルソースの苦味のようなもの。基本的には笑えて楽しくて、時々どこかビターさを感じるぐらいに仕上がっています。

勝平のピュアさ

勝平は禁欲的な修行をしてきたのですが、一般社会に放り込まれることで、性欲と恋愛に悩む場面に遭遇する場面が多くなります。
というかKAPPEIはそれがメインストーリーと言っていいでしょう。

流れで泊めてもらった大学生の部屋で見つけたふたりエッチに異様に興味を示し、局部を見たいのになぜいつも見えないか、ともやもやしたり、ひょんなことから参加することになった合コンで性欲のまま行動しそうになります。
あるいは自分の恋愛成就のために、衝動にかられて道義に反する行動をしそうになったりもします。

これらの行動はコミカルに描かれることが多いのですが、勝平の少年のような純粋さに憧れや羨望に近い感情を抱くことがあります。
KAPPEIはこれまで生きてきてどこかに忘れてきた純粋さ、愚直さを取り戻せる作品とも言えるでしょう。

登場人物と読者をつなげる歌の力

KAPPEIでは歌が人の行動や生き方を変えてしまう場面がいくつか出てきます。KAPPEIの作者の若杉公徳先生はデトロイトメタルシティの作者でもあります。もしかしたら歌は若杉公徳先生の作品を繋ぐキーワードなのかもしれません。

デトロイトメタルシティでは私生活が上手くいっていない主人公の根岸が、デスメタルバンドの形でストレスを一時的に発散、その後落ち込むという流れがひとつの定番でした。
これは読者がストレスをカラオケで発散するのに近いでしょう。

KAPPEIでは歌で人が変わることがよりポジティブに描かれています。こちらは落ち込んでいるときに歌を聞いて元気づけられたり、なにかを決断するときに歌を聞いて後押しされることに近いです。

KAPPEIで使われる歌は尾崎豊、B'z、DREAMS COME TRUEなど、一般にもよく知られたものばかり。
それが世紀末の救世主が現代社会に解き放たれるという突拍子もない設定と人物を、身近な存在に思わせるのでしょう。