読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

藤四郎のひつまぶし

プロの素人によるブログ

お気に入り+このサイトの新着記事

ラノベ執筆戦略論の講義と言ってもよかったのうりん作者白鳥先生講演会


12月15日、岐阜県郡上市図書館はちまん分館で行われた「ライトノベルと郡上」と題した白鳥先生の講演会に行って来ました。

郡上という場所は緑と綺麗な水、そして昔の面影を残す城下町を持っていて、当日白鳥先生自ら呼び子をしていたりととてもアットホームな雰囲気がありました。
そしていざ講演会が始まってみますと、ところどころ聴取者への質問や小ネタをはさみつつ、白鳥先生の分析、戦略を惜しげなく披露するという、とても面白く、興味深いものでした。

講演すべての内容を記憶しているわけではないので、印象に残った部分を中心に私のバイアスや私の勝手な補完もあると思いますが、講演とQ&A、サイン会、その後の車座になっての追加のQ&A混じりの座談会(交流会?)の一部を紹介したいと思います。

講演会

ライトノベルというジャンルの紹介

通常の土曜の朝10時という日程と岐阜県郡上という地理、そして呼び子で地元の人も集めたという経緯もあって、ライトノベルを知らない人、そして知っている人にもためになるラノベの紹介から講演は始まりました。
絵の入った青少年向け小説、といったざっくりとした紹介に続いて、文庫市場の1/4を占めていること、その中の多くが角川系のレーベルであること(電撃、スニーカー、富士見ファンタジア、MF文庫Jなど)、昨年は1000タイトル近く刊行されており、今年は1000タイトルを超えるであろうこと、外国でも読まれており、韓国ではライトノベルの9割が日本の作品の翻訳であることなどをグラフ、表、写真などを交えて紹介していきます。

近年一気に有名になったビブリア古書堂の作者、三上先生が電撃文庫でデビューしたことなど、ライトノベルだけでなくほかのジャンルでも活躍している人を取り上げたりもしていて、青少年だけに通用する狭いジャンルというよりは、広くあるジャンルの中の一つという取り上げ方をしていたように見受けました。

ライトノベルが売れるための条件

ライトノベルの紹介の後は実際に白鳥先生がライトノベルを書くときの戦略について述べていった印象があります。
前述の発行点数の多さに対して、中高生が一ヶ月に使えるお小遣いは限られている、その中でどうやって自分の作品を手にとってもらうかという話です。

面白いな、と思ったのが本が読者のところに届くまでの分析。
作者→出版社→書店→読者と本が流通していくところで、白鳥先生が注目したのは出版社→書店の部分。
書店で読者に自分の本を手にとってもらうには、まず書店に注文してもらわないといけない、というところです。

書店が本を注文するとき、本文は読めなくて分かるのはタイトルやあらすじや表紙、場合によっては表紙がないときもある。
そこで作者が工夫の余地があるのはタイトルだ、ということで第一作のらじかるエレメンツと比べてかなり気をつかってタイトルを決めたそうです。
また最近のタイトルの長文化は刊行点数の増加によってタイトルで中身をわかりやすくする必要に迫られているからではないかという分析もされていました。

ライトノベルを手にとってもらうために

書店に注文してもらった後も、ただ棚に並んでいるだけでは並み居る作品に先んずることはできません。
人の目にふれ、手にとってもらいやすくなるためにはできれば平積みしてもらうことが理想と白鳥先生。

そのために白鳥先生が重視したのは特化戦略。
のうりんは岐阜県にある農業学校がモデルで、バリバリ地域色を押し出しています。
これならば少なくとも地元の書店では並べてくれるだろう、という読みがあったようです。

また挿絵に文字を入れてマンガの見開きのようなインパクトを出すといったところも口コミ、ネットでの拡散を意識していたようです。

ライトノベルと聖地

前述の地域色を押し出すことについて、白鳥先生は今のライトノベルの環境は地域色を出すことに適しているという面白い分析をしていました。

ゲーム小説などと呼ばれていたころのライトノベルロードス島戦記などのファンタジー世界でファンタジー世界の住民を描いていたものが人気でした。
それがゼロの使い魔のような現実世界の住民がファンタジー世界に召喚されるもの、あるいは灼眼のシャナのように現実世界の架空の町でバトルが繰り広げられるものが人気になっていきます。
最近になると僕は友達が少ないのような現実世界の日常を描く作品多くなりました。
つまりどんどんライトノベルの売れ筋が日常に接近しているのです。

日常に近いテーマならばより現実に近い設定がマッチするため、実際の地域や施設をモデルにするのに今のライトノベルはぴったりな環境だということでした。

後のQ&Aコーナーではマンガやアニメ化されて見覚えのある風景があるとやっぱり地元の人は喜ぶという話も出てきましたし、輪廻のラグランジェの地域を巻き込んだプロジェクト、自身のブログでも取り上げた萌え米の話なども取り上げ、今後もこのような傾向は続くのではないかとの話でした。
第16回 参戦! 羽後町まるごと満喫ツアー冬の陣 その1 : のうりんのぶろぐ

ライトノベルと郡上

で「30分かけてやっと郡上の話までたどり着きました(笑)」と郡上の話へ。
作品にこの地が登場したのは取材に行ったNPO法人の人に紹介されて、郡上市の相生(あいおい)を、愛生と漢字を変えて婚活のエピソードに使うのがよさそうだ、と思ったのがきっかけだそうです。
白鳥先生の祖母(だったかな…)の実家がこちらということもあり、昔の思い出の郡上、相生を書いたそうなのですが、実際はちょっと違っていた部分もあったとか。

後のQ&Aコーナーでの「本編でまた郡上が出てきますか?」との質問ではお正月などに帰省するようなことがあればまた出てくるかもしれませんね、とのことでした。

サイン会とサプライズ

といったところで講演会は終了。
Q&A、サイン会と進み、もっと話をしたい人は座談会を心待ちにその場に残ります。
私も前々日に入手した5巻にサインをいただきました。

サイン会の最後には高校生(かな?)の女の子が、自分で描いた林檎と農の絵を先生に渡すというサプライズ。絵を持ってお二人で記念撮影をするという心あたたまる場面もありました。

その女の子はその後の座談会にも参加、本屋の棚割りや各文庫の発売日、のうりんだけでなく白鳥先生の他作品に加えて、数々のライトノベルを知り尽くしたディープな人々に囲まれるという拷問貴重な体験もしたようです。

Q&Aと座談会

ここからはQ&Aと座談会で出てきた話題で印象に残ったものを。

講演会の聴取者がどこから来たか

先生が気になっていたのは聴取者がどこから来てくれたか、というところでした。
岐阜県内の人が多かったようでしたが、県外の人も少なくなく、遠いところでは

「東京からきました」
「大阪から始発できました」
「岡山から泊りできました」
「VIPからきました」

などと遠方からの方も。

これには先生も苦笑い。
驚くと同時にありがとうございます、とお礼を述べていらっしゃいました。

小説家を目指したきっかけ

大学院の頃、在宅の仕事を探さなければならない事情があって小説を志したと白鳥先生。
いろいろなレーベルに応募しまくったそうです。
その時はご縁のなかったレーベルでも、今はそこの編集の人と話をする機会もあったりと自分の評価が変わってきているのを感じて嬉しく思っているのだそうです。

切符先生がすごい

のうりんのイラストレーターの候補に切符先生があがってきたときはまだブレイク前夜で、白鳥先生もあまり意識していなかったそうです。
それが今や複数の出版社で引っ張りだこになっており、一時期は複数のレーベルが一同に集まって切符会議が開かれ、各レーベル持ち回りでイラストを書いてもらう切符協定が結ばれたとか結ばれなかったとか。

先生にイラストをやってもらえたのは本当に幸運だった、とかなり切符先生に感謝されていました。

また一度だけ会った時には切符先生はiPadを持参されており、「表紙はこれこれのような」と説明すると「こんな感じでしょうか」とその場でさらさらとiPadに描いて見せられたそうで、その実力に驚愕したとのこと。

ちなみにのうりん本編の切符先生ネタは創作で、ネタにして大丈夫ですかと聞くと好きにやってほしいと言われたそうなのですが、あまりにも恐れ多くて三回書きなおしたそうです

調べるときはあたりをつけて時間を区切って

かなり綿密な取材に基づいていることが見て取れるのうりんですが、あまりにも取材や調べ物に時間を取られないよう、Webなどであたりをつけて、時間を区切って調べるそうです。
白鳥先生は兼業作家ということを知ってかなりビビリました。すげーなー。

Twitter

ブログはされていますがtwitterはしないんですか? といった質問に失礼なことを言ってしまうかもしれないのでやりませんときっぱり。

個人的には地元の話題、例えばのうりんのモデルになった高校について地元の方からもっと荒々しい校風じゃなかった?といった質問に今は女子が増えて作品のような校風になってるんですよー、などとと話したあとには必ずといっていいほど地元ネタですいません、と地方から来た方への気配りを欠かさなかったので、自分の能力を過信しない方だなぁと思いました。

おp良田さんが書きやすい


先生のお気に入りのキャラは良田さんで、書いていて一番楽で楽しいそうです。
ヒロインに比べてキャラを自由に動かせるのが大きいとのことで、他の作品でもメインヒロインより人気が出てしまったサブヒロインがファンディスクで攻略可能キャラに昇格するようなのはそういう事情もあるんだろうなぁとのこと。
逆にヒロインがきっちり人気になる作者は実力がある人だと思うともおっしゃっていました。

あとはがないでも夜空より肉の方が人気出てますからねと、完璧とも思えるこの日の白鳥先生の言動の中でこの時だけは常軌を逸した発言をされていたので、ちゃんと夜空のほうが可愛いですと訂正しておきました。

↑どう見ても夜空の方がいい。

ちなみに白鳥先生に夜空のどこがいいか聞かれて、上手くその場で説明できる気がしなかったので「長くなるのでいいです」と言ったのですが、夜空の素晴らしいところは根本的な部分で自分が必要とされているかへの自信の無さと過去への囚われ方、そしてそれを隠すように虚勢を張るところです。
またデートでジャージを着てきたり、変な水着を着てきたり、演劇の台本をパクったりするのはガチで物事にあたって受け入れられないことへの恐怖のためで、受けねらいや変人であるように見せかけたりしているんだけど、そんなの気にしない星奈にぐいぐい小鷹との距離を詰められて、しかも最後の砦だった幼馴染というポジションも許嫁で幼馴染というものに上書きされて、でも星奈はそんなこと気にしないで正々堂々勝負しようとしているのにどんどんメンタルが暗黒面に落ちていくのが












最ッッッッッッッ高にいいです!!!









…話が逸れましたね。完全白鳥先生ものうりんも郡上も関係なかったですね。

良田さん関連として、継と良田さんのキャラは○○○○○○○○○○○の○○と○○○○のイメージだとおっしゃっていました。
言われてみりゃその通り過ぎて、なぜ気づかなかったのかと思うほどです。
多分継のキャラがわりと元ネタブレイクしてたからですね…。
あと○○○○については「何故○○た」とおっしゃってたので良田さんが○○ことはないでしょう。

銀の匙

ちょうど同じ時期に少年サンデーで連載が始まった銀の匙については、最初は先越された、と思ったそうで。
しかし北海道と岐阜では畜産と栽培でわりと上手く差別化ができていて、逆に農業くくりでフェアなどが組みやすいかもしれないなど、今ではポジティブにとらえているそうです。
のうりん本編でも気候や地形などの地理条件で同じ農業でも全然違う、という話もありましたし、両方を読み比べるのも面白いかもしれません。

企画・表現の通し方と前例主義

地元への取材やコラボが多いのうりんですが、それらの交渉は白鳥先生が窓口になってやっているそうです。
最新5巻では「岐阜の大地」という実在の肥料が出てきますが、その仕様許可を取るための書類のフォーマットが決まってて四苦八苦したとか。

またそういった企画だったり、ギリギリの表現を担当に通すとき、説得の材料として前例を持ち出すことがポイントになるともおっしゃっていました。
表現の仕事とはいえ、編集者もサラリーマン、前例のない危ない橋を渡りたくない、という事なんでしょうね。
そういう意味でヒロインにゲロを吐かせた「僕は友達が少ない」の平坂読先生にはかなり感謝しているそうです。

ちなみにはがないのゲロについては初稿では全然違う表現になっていて、ギリギリになってから差し替えたとか差し替えなかっただとか…。
作者と担当は日夜バトルを繰り広げているのかもしれません…。

後追い戦術

近年のライトノベルは人気が出てくるとアニメ化が持ち上がり、放送されているころにブームになるとの仮説に基づき、新しいシリーズをはじめるときはアニメ化が視野に入っているような作品を調べ、いざアニメ化された時に自分のシリーズもそのブームに乗っかれるよう考えているとのことでした。
もちろん今やっているシリーズについては方向性を無理に大きく変えるようなことはしないとの注釈付きで。

ギャグとお色気と真面目とライトノベル

ギャグもお色気も真面目も極端な部分があると思うのですが、気をつけているところはありますか? といった質問に、真面目な部分だけでちゃんとした本を書いたら? と言われることもある、と白鳥先生。
ただ自分の書くのはあくまでみんなを楽しませるライトノベルで、真面目なものだけを書くのとはちょっと違う、というポリシーを持っているそうです。
また多くの人に読んでもらって、何か良い影響を与えられたら嬉しいともおっしゃっていました。

白鳥先生の友人

お手伝いとして白鳥先生のご友人がいらっしゃったのですが、どうやら他の取材などにもわりと随行していらっしゃる模様。
座談会でもお二人がかなりフランクに接していたので、取材熱心な白鳥先生のこと、ローズ花園のエピソードなどはもしかしたら二人で実際に試してみたのかなぁ、などと妄想できてバイオ鈴木的に美味しかったです*1

その他

白鳥先生「GA文庫が他のレーベルと一緒の棚に入ってるの、くにおくんの『れんごう』みたいですよねー」
自分「(爆笑)」

感想とか

講演会の感想としては白鳥先生は企画の仕事も向いていそうだなぁというのが一番にきます。
環境を分析し、仮説を立て、それと自分の過去の作品を照らしあわせて次の作品に活かす、というサイクルをしっかり回している印象でした。

この講演会自体も大学の経営学あたりの特別講義だったり、これからライトノベルに参入しようとする企業向けの説明会などでも使えるような仕上がりだったようにも思います。

講演会は10時に始まり45分ごろからQ&Aで11時頃終了、30分ほどサイン会をやってからの座談会は部屋を借りていた限界の13時近くまで白熱するという、全体で3時間近く、白鳥先生と近い距離で話せる時間だけでも1時間以上あるというかなり充実した講演会(+座談会)でした。

次があるとしたら恐らくまた中京圏になると思うのですが、もし近くで白鳥先生のイベントがあればぜひ行ってみてはいかがでしょうか。先生もなかなか近くでライトノベルの話をできる人が少ないとちょっとさびしそうでしたので、きっと今回のように喜んでお話してくれると思います。

あとはアニメ化がされて他の都市でまた先生の話が聞けたりしたらいいなー。
2013/3/10 17:50追記:3/9に「ラノベのすゝめ講演会」という白鳥先生の講演がありましたのでそちらについてもレポートを書きました。
ラノベのすゝめ講演会 - 藤四郎のひつまぶし

GA文庫:「のうりん」 INDEX←100P近い試し読みができる!
のうりんのぶろぐ
Business Media 誠:ライトノベルで農業を描いてみたらこうなった――『のうりん』著者インタビュー (1/3)
ドラマCD のうりん

のうりん(1) (ヤングガンガンコミックス)

*1:あくまでalphabateの妄想です