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藤四郎のひつまぶし

プロの素人によるブログ

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再掲:バクマン。の二人はアニメ化のためだけなら週刊少年ジャンプではなく少年エースを選ぶべき?

※本記事はジャムミックス!で2010/10/10に投稿した記事を修正・追記・再編集したものです。

バクマン。の主人公、サイコーとシュージンは週刊少年ジャンプで連載している自分たちのマンガがアニメ化されることが目的の一つになっています。
ですがもしアニメ化だけが目的なら、週刊少年ジャンプではなく、少年エースを選ぶという可能性もあるのではないでしょうか。

1.週刊少年ジャンプ少年エースの発行部数

週刊少年ジャンプは2012/7〜2012/9では毎号平均で約284万部の印刷証明付き発行部数を誇っています。
これは2位の週刊少年マガジンの約141万部の約2倍です。*1
3位の月刊少年マガジンは約73万部となっており、以下少年、少女、男性向け、女性向けとマンガ雑誌に100万部を超える発行部数を持つものはありません。
私が推す少年エースは約5万部発行部数の月刊誌です。
(ちなみに少女向けマンガ雑誌トップはちゃおで約61万部の発行部数です)

部数は圧倒的なジャンプですが、これがアニメ化にプラスか、といわれるとそうとも限らないのではないかと思います。
詳しくは4.コミックの宣伝としてのアニメ化で述べます。

2.アニメ化の目的

ここで考えたいのは、マンガ原作のアニメ化とは一体何なのかということです。
作者や読者にとっては作品の人気の現れといえるでしょう。
しかしマンガの出版社やビデオメーカーなどにとってはビジネスの手段の一つです。
ビジネスの目的は利益、利益の見込みがないアニメ化はない、と言い換えてもいいでしょう。*2

アニメ化で出版社に生まれる利益とは何でしょう?
今アニメ化としてはメジャーな製作委員会方式を用い、製作委員会に出版社が参加し、テレビ東京ネットの深夜番組としてアニメ化されたと仮定して考えてみます*3

その場合出版社に生まれる利益は大きく三つに分かれるかと思います。
A.パッケージ(DVD・BD)販売の収入
B.単行本の売り上げUP
C.関連商品のライセンス料

このうちCの関連商品については算出が難しそうなので今回はパスします。
AとBについて考えてみます。

3.パッケージ販売の収入

今回は製作委員会にビデオメーカーが出資するなどして、発売元として卸売りする現在主流の形式を考えます。
この場合パッケージ販売における出版社の収入は

(パッケージ売上−パッケージ製造・販売費用など−アニメ制作費用など)×出版社の分配率

になります。

このうち(パッケージ売上−パッケージ製造・販売費用など)はすべて定価で売った場合の売上の30%程度になるそうです。*4

出版社の出資比率=出版社への分配とすると
出版社の取り分は

(パッケージ売上本数*5×定価×30%−アニメ制作費用など)×出資比率

となります。

仮に定価を6,000円、1巻2話収録で12話6巻が平均1万枚店頭で売れたとすると
パッケージ売上本数*6×定価×30%の部分は

6巻×1万枚×6,000円×30%=1億0,800万円

アニメの制作費を一話1400万円、さらにテレビ東京ネットの深夜番組放送枠を使用する費用を月額2,150万円とすると*71クール12話3ヶ月の放送時に発生する費用は2億3,250万円。
なので上の仮定で計算するとDVD(BD)販売のみで考える利益は

(1億0,800万円−2億3,250万円)×出資比率

と見てもらえばわかるとおり、これでは赤字です。
トントンになるには売上が2倍以上、2万枚以上の売上本数が必要です。
実際はアニメDVD(BD)の消費者に対する実売枚数は1万枚以下という作品もかなりあります。
というか大半がそういう作品のはずです。
実売ではなく卸売ということ、さらにレンタルショップなどへの業務用の販売もあるといえど、黒字になるか赤字になるかはやってみないとわからない部分がありそうです*8

以上のことからパッケージ販売だけに期待するのはアニメの出来やそのときの時勢に大きく左右され、リスクが大きいといえるでしょう。
であれば出版社としてはパッケージ販売に加えてBの単行本の売上UPも狙わないわけにはいきません。
これはアニメ化を宣伝の一種として捉えると考えやすくなります。

4.コミックの宣伝としてのアニメ化

a.アニメ化を広告費と見た場合の採算ライン

まずアニメが明らかにおかしいことにはならないよう、発言力のある出資比率を考えます。
この辺の事情はわかりませんが、仮に1/3の33%出資するとしましょう。*9

パッケージの売上は先ほどの例と同じ条件に加え、店頭以外に店頭売上の50%のレンタルなどの売上があるとします。
この場合

(1億0,800万円×1.5−2億3,250万円)×33%≒2,300万円

の赤字になります。
この赤字の2,300万円はアニメ化の宣伝費用と考えることもできます。

単行本の利益について考えます。
まず定価での売上に対する出版社の取り分はWebで調べたところ、信頼できるソースは見つけられなかったのですが70%程度らしいです。

出版社が本を作る原価は
佐藤秀峰 日記 | 漫画 on Web
佐藤秀峰さんの発言を参照してみます。

青年誌で5万部刷った場合は印税や印刷費含め一冊あたり150円が原価になるようです。
部数によって原価は変化しますが、単行本の売上が伸びれば固定費の割合が減り、原価は逓減するとのことです。
10万部刷れば原価は一冊あたり120円とのこと。

ジャンプで連載をして単行本化したときを考えます。
この時、コミックス1巻あたり10万部以上刷っているとします。
420円を定価とすると出版社の取り分は294円、これで採算ラインを超えるには

2,300万/(294-120)=約13.2万部

コミックスの売上が増加する必要があります。

これが少年エースだった場合はどうでしょう。
少年エースでは1巻で5万部刷っているとします。*10
600円を定価とすると出版社の取り分は420円、これで採算ラインを超えるには

2,300万/(420-150)=約8.5万部

コミックスの売上が増加する必要があります。

一般的に週刊であるジャンプの方が単行本の巻数が多いため、
これだけではどちらが有利とはいえません。*11
むしろここで注目したいのはジャンプの圧倒的な発行部数とテレビの視聴率の関係です。

b.視聴率と原作読者とコミックス売上増加の関係

アニメ化した際に、どれだけの視聴者がいるか考えます。
テレビ東京系列で放送した場合、人口の約7割はカバーできるようです。(正確なソースなし)
ここで視聴率1%をとった場合、視聴者は単純計算で1.2億人×70%×1%で84万人です。

前述のようにジャンプの平均部数は約284万部です。
ジャンプの読者の1/5がアニメを見ていたとすると、新規にアニメ化作品に触れる視聴者は約27万人になります。
それに対し少年エースは、発行部数は約5万部、それらの人のほとんどがアニメを見たとしても80万人近くが新規にアニメ化作品に触れることになります。

作品の質は連載先が少年ジャンプでも少年エースでも変わらないとし、
それはアニメの作品の質についても同様とします。
もしそうであれば視聴率も変わらず、アニメ化で興味を持って、
原作を買おう、とする人の割合は変わらないはずです。

まず新規視聴者5人の内1人が原作を1冊買ったとします。
するとジャンプの場合

27万×1/5=5.4万部

少年エースの場合

80万×1/5=16万部

売上が増加します。
この場合ジャンプでは先ほどの採算ラインの13.2万部まで達しないのでDVD販売の赤字をペイできず、アニメ化はしない、という判断が合理的です。
一方少年エースでは8.5万部の採算ラインを超えているので、アニメ化の価値はあります。

条件を変えて2年程度連載をしていた作品をアニメ化、
視聴者の10人の内1人が原作を全巻買ったとします。
ジャンプコミックでは10巻、少年エースでは4巻発行されていたとすると
ジャンプでは

27万×1/10×10=27万部

の売上部数増加、金額にして

27万部×(294-120)=2398万

の黒字。

少年エースでは

80万×1/10×4=16万部

の売上部数増加、金額にして

16万部×(420-150)=8640万円

の黒字です。
この条件でも少年エースのほうが見込みの黒字幅が大きく、アニメ化しやすいといえるでしょう。

とまぁ条件設定次第なのですが、宣伝効果としてアニメ化を捉えると、発行部数の少ない出版社ほど視聴者と原作購入者が重ならないため、宣伝効果が高いとも考えられます。

5.雑誌の特徴、カラーの話

今回はジャンプでの連載も少年エースでの連載も差がなく、アニメ化された時の質も変わらないとしました。
しかしジャンプの過酷な競争原理などによってマンガ自体の面白さが増す可能性も高いです。
またもともと売上があったほうがアニメ化された時の力の入れ方も変わってくるでしょう。

今回は深夜アニメとしてテレビ局からの製作費なし、と仮定していますが、ワンピースやドラゴンボールのようなプライムタイムや休日午前に放送して製作費も出る(スポンサーを引っ張ってこれる)アニメはやはりジャンプの看板漫画のような作品でないと不可能だと思われます。
そのようなアニメならば関連商品もかなりの数販売され、映画化もされることでしょう。

ただシュージンの「邪道」は少年ジャンプよりも少年エースなどの雑誌の方がカラーに合っている気もします。
個人的なイメージですがジャンプよりエースのほうが「邪道」作品には寛大で、表現の幅もかなり広いイメージです*12
実際にバクマン。では二人が編集と意見が折り合わず回り道をしているイメージもあります。
そこのところも考えるとアニメ化だけを考えて少年エースでの連載を目指すのは選択肢の一つとなりうるかもしれない、などと思うのです。

(2013/1/16)
恐らくジャムミックス!のアニメ関係の記事で一番アクセスをしてもらった記事です。
にも関わらず、改めてみてみるとパッケージ販売でレンタルショップなどの業務用について触れていなかったり、コミックスの販売で定価から原価を引いたものがすべて出版社の取り分になると計算していたりと、なかなか粗が目立つ記事でした。
今回はそれらを修正してさらに一部のデータを最新のものにしたり、仮定の数字をいじったりしています。

この辺は外部から見て情報を切り貼りしていても漏ればっかりありそうで、内部=製作委員会などの情報がないと厳しいなぁと思います。
この辺の話を聞く、見る機会も少なそうなので一番手っ取り早いのはそういう仕事に関係することでしょうか。
ただそうすると守秘義務があって外に情報出せなそうな気もします。

もう一つ、当時調べていて思ったのはアニメ制作ビジネスを見るとき、どのプレイヤーから見るかという視点の大事さです。
今回は出版社の視点から見ていますが、製作委員会に入っていない、実際にアニメを制作するアニメスタジオから見ればまた違った形が見えてきますし、製作委員会に入ることが多いビデオメーカー、レコード会社などから見たとしても違った形が見えることでしょう。

そのへんはこの辺の記事でも触れてみたつもりです。
アニメの売上を語るかぁ… - 藤四郎のひつまぶし
ヤマノススメはアニメ化しちゃいけない、ってホント? - 藤四郎のひつまぶし

いずれにせよこの記事を書いていて、自分は数字に基づいてこのアニメは商業的に成功しただとか、商業的に失敗しただとかの記事を書くのは無理かなぁ、などと思ったのでした。

*1:社団法人日本雑誌協会より

*2:株主が利益の追求を目的としている場合、との但し書きは加えたほうがいいかもしれませんが

*3:テレビ局からの製作費は考えていません

*4:アニメビジネスがわかるより。ただし発行時期的にBDについては言及されていません。BDはDVDよりも利幅が少ないという話もあります

*5:卸売本数

*6:卸売本数

*7:アニメビジネスがわかるより

*8:レンタルショップは大手二社のTUTAYAが2011年3月に1400店舗ニュースリリース|CCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、ゲオが2012年3月31に1413店舗ショップデータ | 財務情報 | 株主・投資家情報 | 株式会社ゲオホールディングスのようです。レンタルショップの方が安定的な売上が見込めそうな気がしますがそれでもこの店舗数では確実に回収できるとは言えないと思います

*9:実際は製作委員会のほかの会社も赤字をかぶるわけにはいかないので、単行本の売上上昇が確実に見込まれる出版社以外に出資比率より収益の配分を多くするなどの配慮も必要になるかもしれませんがここでは考えません

*10:オリコンを調べるとエヴァの13巻の売上がこのぐらいだったので実際はもっと少ないかもしれません

*11:休載がなければ1年で2倍以上の数の単行本が出ているようです

*12:私の印象ではアニメ化された作品だと未来日記などはかなりジャンプとは毛色が違うも、DEATH NOTEなどと似たカラーも感じました