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藤四郎のひつまぶし

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既存読者と新規読者の両方を満足させるためにニンジャスレイヤーが用いた5つの手法

ライトノベル WEBサイト ニンジャスレイヤー ビジネス 考察


Twitter小説として人気を博し、書籍化に続いてオーディオドラマ化が発表されたニンジャスレイヤー。
Twitter発の作品として、これだけのメディア展開をしている作品はなかなかないと思われます。

ネオサイタマ電脳IRC空間
ニンジャスレイヤー書籍公式サイト

ニンジャスレイヤーがなぜここまでのメディア展開ができたのか?
それには広報に加えて、作品の構成、表現も新規読者と既存読者の両方を満足させられるよう最適化するという緻密な計算がありました。

ニンジャスレイヤーを語る前提として:WEB小説という媒体とTwitter

現在小説というジャンルは書籍という筆者が執筆した作品が出版社を通し、本屋に並ぶというルートの他に、Web小説、ケータイ小説などと呼ばれるルートで読者に供給されることも増えてきたと言っていいでしょう。

WEB小説の大御所としては小説家になろうといったWEBサイトがあります。
超人気作品ともなれば累計3000万PVにも達しているとか。
4Gamer.net ― 累計3000万PVを記録した人気Web小説が書籍化。「放課後ライトノベル」第56回は『魔法科高校の劣等生』で魔法の世界にご入学おめでとう!
WEB小説では無料で読める作品が主流ということもあってか、人気作品ともなれば書籍に負けない読者数の作品もあると考えられます。

WEB小説では、読者の反応が早く、作者と読者、あるいは読者と読者の垣根が低くなりやすいです。
書籍では執筆から出版まで時間が開くことがあります。さらに読者が本屋で購入して感想をハガキやメールで送るまでとなると、執筆から何ヶ月も開いてしまうことも少なくないでしょう。そしてそのやり取りは作者と読者の間で完結することが珍しくありません。

しかしWEB小説などでは発表したページやそこから1,2クリックの範囲にコメント欄やメールアドレスなどを設けていることが多いです。
作品を投稿すれば、1時間もしない内に反応をもらえることすらあります。
作品のすぐ側にコメント欄があれば、読者同士で感想を読み合うことも、そこから交流が始まることも増えるでしょう。

そんなWEB媒体の小説の中でも、Twitterというメディアはリアルタイム性が高く、作品とコメントの表示形式に違いがないという特徴を持っています。
この特徴は作者と読者、読者と読者の垣根がさらに低くなり、双方向性、即時性がより高まっているとも言い換えられます。

そのような環境でニンジャスレイヤーはどのような手法でメディア展開ができるほどの読者を獲得したのでしょうか?

手法1:いつでも新規読者が入ってこられる構成にする

ニンジャスレイヤーの特徴の一つに、「どこから読んでも楽しめること」があります。
これは下記のツイートが端的に表しています。

水戸黄門を第一話から見ている人はあまりいない」は名言といっていいでしょう。
ニンジャスレイヤーがすべてのエピソードを漏れ無く見ずとも楽しめるとわかりやすく示しています。

また「どこから読んでも楽しめること」を実現するために、作品の発表形式を大きく変更することすらあります。

インタビュー・ウィズ・ニンジャ (ボンド=サン&モーゼズ=サン) - Togetter

前のエピソードを読んでいないと楽しみ辛いエピソードだけを連載したくない。
また、ヘビーなエピソードだけを連載したくもない。
できるだけ新規の読者が入りやすい部分を保持しておきたいという意図です。

物語が一番盛り上がっていくところですら、新規読者の入りやすさも重視しています。
この一貫性は並大抵のものではありません。

手法2:新規読者が既存読者と一緒になって楽しめるよう、同じ表現を何度も反復する

ニンジャスレイヤーには数々の特徴的な表現が出てきます。
先ほどのツイートにも「反復」という言葉が出てきましたが、特徴的な表現は何度も何度も反復され、読者の記憶に残っていきます。

それらを解説している記事としましてはこちらが詳しいかもしれません。

そろそろ『ニンジャスレイヤー』を紹介したいと思ったので紹介する - ウィンドバード::Recreation

いきなりの礼儀正しい挨拶は、『ニンジャスレイヤー』の特徴的な一場面です。どんなに敵対的な関係でも挨拶を欠かすことはできません。挨拶を無視することはとてつもない非礼なのです。

ほとんどのニンジャは死ぬときに「サヨナラ!」と叫んで爆発四散します。爆発するのはニンジャソウルのエネルギーが暴走するかららしいです。
この他にも「アイエエエエ!」といった悲鳴、「イヤーッ!」「グワーッ!」などといった掛け合いなど、特徴的な表現が頻出します。

その他にもこちらなどはニンジャスレイヤーを知るための一助になるでしょう。
忍殺語とは (ニンサツゴとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

これらの特徴的な表現の反復は、新規の読者と既存の読者の間でも楽しみを共有できるようにデザインされたものです。
Twitter連載開始当初から物語を追っている既存読者も、数日前に何気なくTwitterアカウントをフォローした新規読者も「ドーモ、既存読者=サン。新規読者です」「ドーモ、新規読者=サン。既存読者です」とすぐに作中表現でのアイサツを交わせるようになるのです。
Twitterという作者と読者、読者と読者の距離が近い、そしてリアルタイム性が高いメディアにピッタリのデザインといえるでしょう。

手法3:どこからでも楽しめることを何度も広報する

ニンジャスレイヤーの特徴として、節目節目で何度も同じ内容の広報を繰り返すことが挙げられます。
実際にはこちらのTogetterを日付欄に注目しながら参照していただけるとわかりやすいかと思います。

ニンジャスレイヤー翻訳チームからのお知らせまとめ - Togetter

こちらでは2010年10月から2013年2月、つまりこの記事を書いている時点までのお知らせ、広報活動(の大部分?)を読者がまとめてくれています。
そこでは繰り返し「各エピソードの時系列が掲載順とは限らないこと」「どこから読んでも楽しめること」「リプライには返信できないがありがたく受け取っていること」「二次創作は出典を明記すれば原則自由なこと」などがツイートされているのがわかります。

「どこから読んでも楽しめること」は先ほど「水戸黄門を第一話から見ている人はあまりいない」という言葉を紹介しました。

このような発言が繰り返されることで、新しくニンジャスレイヤーに触れる人は膨大な過去エピソードに尻込みする必要がないとわかります。
そしてニンジャスレイヤーは敷居がとても低い作品だと感じることでしょう。
またこの広報は、熱心な読者が新しく読者になった人に、勢い余って無理矢理すべてのエピソードを読ませようとして、読者間でギスギスしてしまうことも予防します。

ちなみに「どこから読んでも楽しめること」を掲げていれば、すべての広報ツイートを読者が見ている前提で連載を続けていくことは矛盾となります。
新規に読者になった人に伝えるためには、同じ内容を何度も繰り返し広報することが大切だとニンジャスレイヤーの翻訳チームは知っているのです。

手法4:〜しないという約束と一緒に夢も広報する

ニンジャスレイヤーのアカウントはこの種の二次創作活動の肯定、ログを削除しない約束の広報を繰り返します。

これはニンジャスレイヤーがどのような展開をしようとも、これまで楽しんできた読者の活動をやみくもに制限するようなことはないという意思表示です。
書籍化という重大発表に勝るとも劣らない先日の衝撃的な発表、オーディオドラマ化でもこのようなツイートがありました。

翻訳チームはニンジャスレイヤーがどのような展開をしても、しっかりと監修をするという意思表示です。

これらとはやや趣が違うツイートとして、このようなものもあります。

ハリウッド進出も視野に入れているとのことです。

これらを総合すれば、ニンジャスレイヤーは読者の活動を制限することなく、新規メディア展開、読者獲得についてもしっかり監修をしながらどんどん行なっていくというメッセージになります。

〜は絶対しないという約束だけではなく、作品の進む方向も伝えることで、ニンジャスレイヤーが今後どのような展開を予定しているのか、目指しているかを読者と共有できるのです。

〜しないという約束だけでは次に何が起こるかわからず不安になります。
進む方向だけ示してもその過程で何かが切り捨てられるのではと不安になります。
節目節目でこの両方をあわせて広報することがニンジャスレイヤーという作品と読者の間の信頼関係を構築していくのです。

手法5:広報も面白く

読んでお分かりかと思いますが、これらの広報は完全に事務的に行われているわけではありません。
特徴的な翻訳調、言い回しも多用されています。
またストーリー形式で広報が行われることもあるのです。

前述のオーディオドラマ化を広報した2/22のツイートはこのような流れで始まっています。

ただ事務的に広報するだけでは味気ない。
味気なければエキサイティングな本編に埋もれてしまって、広報が本当に読者に伝わるか怪しくなります。
広報を何度も繰り返すのは有効な手段の一つですが、あまりに繰り返してしまうと肝心の作品投稿が埋もれてしまい、読者は離れてしまうでしょう。
その解決策が、広報も面白くし、楽しみながら注目してもらうことなのです。
映画の上映前の注意事項を、その映画に登場するキャラが説明することなどと同様の手法とも言えるでしょう。

ニンジャスレイヤーという計算されつくしたコンテンツと応用の可能性

以上のようにニンジャスレイヤーは既存読者、新規読者を両方満足させるよう、構成、表現方法、広報といったものを最適化しているコンテンツということができます。
この手法、考え方はTwitter小説という狭い分野だけで通用するものではありません。
新規顧客が流入しやすいフックを設ける、既存顧客が新規顧客を締め出さない環境を作るといった、他の商品、サービスへ応用出来る手法、考え方でもあります。

既存のビジネスモデルにこの考えをいきなり導入するのは難しいかもしれません。
ですが新規サービスを立ち上げるといった時に、新規顧客と既存顧客の両方を満足させるしくみを考えることは、拡大のペースを維持し続けるためには必須といえるでしょう。
ニンジャスレイヤーはそれを見事に達成しつつある、モデルケースの一つと言えます。

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ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1
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