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藤四郎のひつまぶし

プロの素人によるブログ

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ルビと時代と言語


第19回電撃小説大賞であるところのアリス・リローデッドを読みました。
架空のアメリカの西武開拓時代っぽいところを舞台にチャームガンと呼ばれる魔法の銃が登場して、恐ろしい魔女を倒そうという物語です。
主人公はチャームガンのミスターマグナム。
おてんばアホっ子のアリスを相方に、咲に出てきそうな先住民の女の子にファッキンゴッドな牧師、二丁のショットガンを撃ちまくるお嬢様となかなか愉快な仲間を引き連れての冒険譚。

特に銃撃戦の描写はミスターマグナムの戦略・戦術も面白ければスピード感ある描写もたまりません。
幾重にも張り巡らされた伏線も私好みですし、こんな洋画っぽさを感じるセリフ回しも好きです。

「めっちゃ撃たれそうだよッ?」
「ギャンブルは人生の常備薬だ」
茜屋まつり『アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム 』(電撃文庫)P73

良い顔だ。ねぐらを荒らされたグリズリーみたいに怒ってやがる。
茜屋まつり『アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム 』(電撃文庫)P135

他にはミスターマグナムの銃の天敵である錆をもたらす「水」への忌避感と、それに関する描写もすごく好きでした。

濡れた! 三滴濡れたじゃないかッッ!! 呪われるがいいッ!
茜屋まつり『アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム 』(電撃文庫)P163

アリスの涙が、私のアイアンサイトに落ちる。
一滴……二滴。何も言えなくなった。
茜屋まつり『アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム 』(電撃文庫)P225

去年の末から吾輩は猫であるをちまちま読んでいる身にとっては、人間に近くはあるが人間とは違う行動原理を持つモノの一人称物語というのはもうちょっとあっても面白いかなぁなどと思うのです。

と、今回の主題はそこではなくて「ルビ」と「舞台設定」の話になります。

ルビ。縦書ならば文字の右横、横書きなら上に振られるひらがなやカタカナです。
アリス・リローデッドはこのルビがすこぶる多い。
そしてこれのおかげか、あるいはこれを多様する必要があったおかげか、物語の入りが結構きつく感じたのです。

私としてはアリス・リローデッドのルビは三種類と捉えています。
1つ目は(読みにくい)漢字のふりがな。
2つ目は英語訳。
3つ目はアメリカ先住民言語訳。

1つ目はそんなに説明は必要ないと思います。「黒煙」に「こくえん」なんてルビが振ってあるやつです。
私が入りがきつく感じたのは主に2つ目と3つ目でした。

例えば英語訳のルビにはこういうものを分類します。

結末(エピローグ)
誤作動(ジャム)
生贄(サクリファイス)
主人(マスター)
先駆者(パイオニア)
保安官(マーシャル)
大砲(キャノン)
反抗勢力(レジスタンス)
ネズミ(ラット)

もうちょっと長文だとこの通り。

英雄騎兵(キャバルリー・ヒーロー)
突撃ラッパを鳴らせ!(サウンド・チャージ)
魔女戦争(ウィッチ・アット・ウォー)
世界は私の手中にある(オール・イン・マイ・テリトリー)

アメリカ先住民語訳だとこんな感じ。ただこっちは私は詳しくないので別の言語かもしれません。

切断(キヤクサ)
魔女(マスク)

長文だと

毒蛇の空(マアビア・ナドウ)
精霊狼(シュンカマニトウ・タンカ)
燃やし尽くす風(アシール・ウノレ)

これらのルビに慣れるまで、文章を読むテンポがなかなかつかめなかったのがきつかったです。

私は普段見る漢字のふりがなについては基本問題を感じることは少ないです。
人名などちょっと変わった読み方以外は基本的にふりがなが漢字の補助をしていると認識できます。
なので極論を言えば漢字だけ読めば事足りることも多いです。

しかしアリス・リローデッドの英語とアメリカ先住民言語はそうは行きませんでした。
最初漢字(時にはひらがなやカタカナ!)とルビの対応関係が読めなかったため、毎回ルビのところで止まり、ルビと本文を読み、どういう関係なのかに思考を持っていかれていました。
しかも同じカタカナでも英語訳の場合とアメリカ先住民言語訳の場合があってなかなか法則性がつかめません。
そのためしばらくの間、ルビのところで毎回つっかかり、ストレスを感じてしまっていました。

後半になると慣れてきて、英語訳は漢字のふりがなと似た感じの補助のイメージで、アメリカ先住民言語訳はルビのカタカナだけではイメージの沸かない言葉を本文で解説してもらう感じで読めていけたのですが。

そして読み終わってちょっと考えたのです。これ、今の日本以外を舞台にする場合、言語のハンデがあるんだなぁと。

アリス・リローデッドはなにも読みづらくするためにルビを使っているのではないと思うんです。
英語やアメリカ先住民言語を知らない人にも最小限の説明をしつつ、西部劇のフレーバーを散らすためにルビを使っていると思うんです。
英語についてはカタカナだけだとわからない人もいるでしょうし、アメリカ先住民言語なら言わずもがなです。
カタカナごとに注釈いれて各ページの左に小さい文字をずらずら並べたり、本文で(〜のこと)なんて書くのもそれはそれで読みにくいわけで。*1
時代が過去でも日本なら、漢字で説明なしでもやんわりと意味は通じるかもしれません。
でも外国で時代も違うとすげーキツイなぁと思うのです。

そうなると中世ヨーロッパをモチーフとしたファンタジーよりも異世界召喚モノ、VRMMOモノといった現代日本に比重を置いた物語のほうが言語の問題で楽かもなぁ、なんて想像も膨らみます。
もしそうなると今の言葉にしか触れる機会がないから他の国、時代の言葉を使う物語が難しく、他の国、時代の言葉を使う物語が少ないから今の言葉にしか触れる機会がなくなってく、とかそんな話にもなるかなぁとも思いますが、今と昔で物語の舞台設定の統計を取ったわけでもないので与太話でしかありませんが。

とまぁそんな感じでルビについていろいろ考えたアリス・リローデッド。
序盤はややテンポが掴みづらかったですが一度読み方を掴むと最後まで一気に駆け抜けることが出来ました。
面白かったです。
アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム (電撃文庫)
アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム (電撃文庫)

*1:そういえば電撃文庫で後者の表現を使う小説ありますね。あれはもう様式美と言っていいんでしょうかね