藤四郎のひつまぶし

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『戦う司書と恋する爆弾』と一目惚れの力の強さ


アニメ化もされた戦う司書シリーズの原作小説1巻を読みました。
人が死ぬと本になり、その人の記憶を読むことができるという設定と予知魔法という設定の2つが織りなす独特の展開は、原作小説でも、既に体験済であっても鮮烈さがありました。

アニメではその独特の展開にかなり意識を持っていかれていたのですが、大まかなストーリーは変わらないためほぼ二度目の体験となる小説版ではまた違った部分が強く心に残りました。
それは人間爆弾にされてしまったコリオと常笑いの魔女と呼ばれ、裁判の後に刑死に相成ったシロン=ブーヤコーニッシュのそれぞれの一目惚れについてです。

この戦う司書と恋する爆弾の物語は現在の時系列で起こる物語と本を通して読む過去の断片の物語の大きく2つに分けることができます。

現在の時系列の物語で世界に大きな影響を与えているのは人間爆弾を作ったシガルとシガルが殺そうとしている女、ハミュッツ・メセタです。
ハミュッツ・メセタは世界最強の武装司書とも呼ばれ、シガルはそれを殺そうと人間爆弾の他にもあらゆる手段を使います。
世界最強であり、世界の管理者の元で働くハミュッツ・メセタの危機は世界の危機にすら繋がる大事です。
しかしこの戦う司書と恋する爆弾ではそこが本筋ではないと言い切ってもおかしくないと思っています。

戦う司書と恋する爆弾で私が一番心を揺さぶられるのは、コリオとシロンのそれぞれの一目惚れと、それを原動力とした行動です。

はっきり言って私としてはシロンの行動はかなり共感できないところがあります。
彼女は一時聖女と呼ばれるも、あるとき自分のとってきた罪深い行動が白日の元に晒され、魔女と呼ばれるようになります。
それが最後を迎えるにあたっては一部の者にはまた聖女のように扱われます。

私には総合的に見て、彼女の行動が正しい行動であるとか、評価されるべき行動だったようには思えません*1
ただ、彼女の行動の根本にある恋の情熱だけは全く否定できるものではありませんでした。

彼女の背景の描写が少ないことなどもあり、彼女が魔女と呼ばれる原因となる行動をとったこと、それを後悔しながらも変わろうとしなかったところについてはあまり詳しい事情が分からず、彼女の葛藤、苦悩をわかちあうことができませんでした。
やや距離を感じる彼女の言動はただの支離滅裂のようにすら思えます。
しかし、だからこそ彼女が恋のために行動を起こしたという事実だけが鮮やかに浮かび上がってくるように思えました。

一方のコリオの行動は、シロンの支離滅裂で世界を揺るがした行動とは逆に見えます。
コリオはハミュッツ・メセタを殺すという目的だけを持った人間爆弾でした。
それがシロンに一目惚れをすることで、ハミュッツ・メセタを殺すという目的が殆どどうでもよくなり、完全に恋のために行動するようになります。
なんの混じり気もない純粋な恋のためだけの行動。これもまたコリオの恋を鮮やかに描いているように感じました。

この2人の恋の物語がラストシーンへとつながっていく物語運びが本当に素晴らしい。
この2人の物語に読者が集中するように、ハミュッツ・メセタは謎の女性で何を考えているかわからないよう徹底し、シガルは執拗にただの小物として描写しているようにすら思えます。

アニメがとても楽しめ、改めて読んだ原作1巻も満足のいくものだったので、続刊も時間を見つけてちょくちょく読み進めていこうと思います。

戦う司書 The Book of Bantorra DVD−SET1 〈期間限定生産〉
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*1:し、作者もそのように書くつもりはなかったように思います