ガールズ&パンツァーは、端々から軍国主義的なメッセージを感じるアニメと言えます。
自分で選択したかに見える事実上の「徴兵制」
本作の舞台の一つ、大洗女子学園はそれまで戦車道の科目がなかったにもかかわらず、文科省の通達により戦車道を復活させました。
それだけに飽きたらず、戦車道選択者へのあからさまな優遇措置、プロパガンダとも言える戦車道のみにフォーカスした選択必修科目のオリエンテーションを行います。
さらに適正のある者、本作での主人公であり、戦車道の家系である西住みほについては恫喝と言える態度で戦車道を選択するよう迫りました。
みほの友人二人はオリエンテーション前までは特に戦車道に思い入れはなかったようですが、生徒会のプロパガンダによって、考えを転換、みほに戦車道を選ぶよう勧めます。
それでも戦車道を選ばなかったみほを、生徒会は呼び出し、叛意させようとします。
友人二人にまで迷惑がかかることを心配したみほは、仕方なく戦車道を選ぶこととなります。
この経緯を見て、果たしてみほが戦車道を選択したと言えるのでしょうか?
第二次世界大戦中、赤紙と呼ばれるものが届くことはたいそう恐れられていました。
赤紙は通称で正式名称は召集令状、つまり軍に召集されることを知らせる書類です。
これを受け取ることは国家のために働くこと、大変名誉なこととされ、「おめでとうございます」の言葉とともに届けられていました。
中には本当に名誉なことと思った人もいるでしょうが、赤紙が必要とされるということは兵士が死んで欠員がでたということ。
死刑宣告ととる人はたいそう多かったでしょう。
本作でみほに渡された選択科目履修届。
頭に選択と書いてありますが、前述のとおり選択の自由は生徒にはありません。直接的には生徒会、もとを正せば文科省、そして日本国が使える生徒を選択しているのです。
その選択された生徒にとって、この履修届は赤紙と変わりありません。
一億玉砕の精神を感じる女子学徒出陣
第二次世界大戦前まで、日本では学生の身分にあったものは26歳まで徴兵を猶予されていました。
それが戦争の長期化や戦況の悪化によって猶予は取りやめられ、最終的には徴兵適齢を19歳に引き下げられることになります。
しかし考えようによっては近代日本が亡国一歩手前までいった戦争であっても、18歳以下の学生は徴兵を免れていたとも言えます。
さらに徴兵の対象は男子であり、女子が徴兵されることはありませんでした。
翻って本作では、女子高校生が戦車に乗り込むこととなります。
その中の最低でも一人以上は、前述のように戦車に乗ることを強制されたといってもいい女子。
みほたちが戦車に乗り込むたびに、学徒出陣といった単語、一億玉砕といった勇ましい戦時標語が頭にちらつきます。
人と傷つけることを隠したキレイな戦争
戦争がなぜ忌み嫌われるか。それは人が肉体的にも精神的にも傷つき、住む家と生活が破壊されるからです。
本作ではそのような戦争の陰鬱な場面は描かれません。
戦車に乗った少女たちが傷つくことはなく、主砲を撃った先にあるのは可愛らしい白旗です。
その戦車に乗り込む少女たちは最低限の説明すら惜しむかのように、すぐさま戦場へと駆り出されていきます。
人を容易に踏み潰す履帯と、人を紙くずのように吹き飛ばせる主砲を備えた鋼鉄の巨体にもかかわらず、安全という単語を一言も聞かないまま。
このような描写からは、主砲を向ける相手へはおろか、自分、味方といった人たちの命ですら目的の前には些細なことと考えていることが伺えます。
戦争へ道
第二次世界大戦の終戦から60年以上が経過しています。
戦争の経験者はどんどん少なくなり、戦争の悲惨さを伝え聞くことは少なくなっていることでしょう。
それと反比例するかのように、戦争への忌避感も減っているのではないでしょうか。
またいつか日本が戦争へと突き進んでいく、そんな未来への道筋をガールズ&パンツァーが示しているように思えてならないのです。
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