テーマパークのシビアな経営をファンシーなキャラを交えて描く「甘城ブリリアントパーク」
フルメタル・パニックの作者、現在では氷菓といったアニメの脚本、フルメタル・パニックアナザーの原案・監修でも*1有名な賀東招二先生の最新作。
頭脳明晰なイケメンナルシストで幼少の頃は子役として活躍までしていた主人公、可児江西也が転校生の千斗いすずにマスケット銃をつきつけられ、うらぶれたテーマパークとその支配人の14歳の少女、ラティファを救うための支配人代理として祭り上げられ、行動していくことになる物語。
ストーリーの中核になるのは2週間以内に10万人の来場がなければ契約にしたがってテーマパーク、甘城ブリリアントパークは閉園になってしまうという部分。
14日で10万人が必要なのに甘城ブリリアントパークは平日2000人にいかない客の入り。
10万はおろか、半分の5万人だってかなり怪しい。
これをどうにかするために西也はなりふり構わない施策に打って出る。
その施策はもうカッコ悪さ、えげつなさ、非情さ、どれをとっても一級品。
人によっては顔をしかめるような宣伝、費用や収益を度外視したキャンペーンなどありとあらゆる手を使う。
その普通の経営を無視しているようにも見えるやり方に、流石に反論が出るがそれに対して西也はこういう。
「嵐で難破して溺れている者が、しがみつく舟板のことを気にするか? 舟板の持ち主のことを心配するのか?」
賀東招二甘城ブリリアントパーク1 (角川ファンタジア文庫) P185
経営状態を心配するより、まずは閉園になることを何としても避ける。
この優先順位の付け方は理に適ってはいるように見える。しかし現実にはしがらみや常識があってなかなかできないものでもある。
それを実行できるのは西也が非凡な才能を持っているからか、はたまた友達のいないぼっちだからか。
こうやってやれるだけのことをやっていったとき、一つの重大なイベントが発生する。
果たして甘城ブリリアントパークは閉園を免れるのか?
…といったところ。
ストーリーの本筋以外にもラティファの込み入った事情など、重い部分は中々多い。
それをテーマパークの雰囲気とかわいい女の子、そしてファンシーなマスコットたちというビジュアルが緩和してくれる。
それに加えてマスコットの外見と中身、会話内容のギャップで笑わせてきたりもするため、重くなり過ぎないでスラスラ読める。
また10万人という数字と2週間というタイムリミットのおかげで状況が上手くいっているのか悪いのかが明確になり最後まで緊張感も途絶えない。
そのほかギャグとして使われたバス停の描写やマスコットたちの居酒屋トークが伏線になっていたり、逆に伏線として匂わせた描写がこの巻では回収されなかったりもする。
パズルのピースがピタリとハマるところと、今回はピースの提示だけで終わるところが入り交じっているおかげで、最後まで何が出てくるかわからない。まさにテーマパークのように面白く読めた。
1巻では前述のように来場数をどうにか達成することが最重要で、それ以外の要素は無視される場面も多かった。
しかし2巻以降でそれ以外の要素、費用、収益、資金繰りといったものを無視し続けるようには思えない描写にも見えた。
この巻ぐらいのエンターテイメント性を持ったまま、メディア論、エンタメ論、経営あたりに焦点をあてていく作品になるかもしれないと思うと、続刊も楽しみでならない。
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*1:というかもしかしたらこちらの方が?