※本記事はジャムミックス!で2011/4/17に投稿した記事を修正・追記・再編集したものです。
みなさんTIGER & BUNNY見てますか?
TIGER & BUNNYは個性的なヒーローが実在のスポンサーのロゴを背負って活躍する一風変わったアニメです。
そしてこの作品のビジネスモデルとそれをとりまく環境もなかなか面白いです。
知っている方はいまさらですが、TIGER & BUNNYはMBSやTOKYO MXといったテレビ局、USTREAMなどを通じて無料で見れるテレビアニメです。
しかしTIGER & BUNNYを作っている会社も慈善事業でしているわけではありません。
どこかでお金を稼がないといけないわけです。
普通のアニメであれば主なお金を稼ぐ方法はこんなところでしょうか
1.DVD・BDを売る
2.関連商品を売る
3.CMのスポンサーから広告費をもらう
1のDVD・BDを売るはとてもわかりやすいですが、実はこれがなかなか難しいです。
アニメDVDは1000枚売れないことも珍しくなく、1万枚売れたらヒットという世界です。
アニメはものによりますが1話作るのに、1,400万円程度かかるようです*1。
1クール、12話とすると1億7,000万円近くかかる計算です。
たとえばこれを2話収録、卸売り価格3,000円のDVD6巻で売る場合、他に費用がまったくかからないと考えても各巻1万枚近く売らないと赤字になってしまいます。
2の関連商品はライトファン向けのコミック、小説といった商品から、コアなファン向けのロボや美少女フィギュアまでいろいろと種類があります。
1で触れたとおり、DVDの売上だけでは製作費にも達しない場合もあると思われます。
ですが関連商品の売り上げ次第ではそれをカバーでき、全体の収支としては問題ないという場合もあるでしょう。
原作がマンガや小説の作品は原作の売上増加を前提にアニメ化が進められる場合も多いようです*2。
またオリジナル作品でも同時期にコミカライズ、ノベライズを行って、ひとつの作品でなるべく多くの商品を送り出しているようです。
日曜5時枠で注目されて先日最終回を迎えたSTAR DRIVER 輝きのタクトや今期注目アニメのひとつ、花咲くいろはもコミカライズを行っています。
大ヒットが確実視されているまどか☆マギカはコミカライズ版が売り切れ続出で手に入らない時期がありました。
魔法少女まどか☆マギカ:外伝マンガ2作がトップ5入り シリーズ50万部突破 - MANTANWEB(まんたんウェブ)
このように、アニメビジネスを考えるときはBD・DVDの売上だけでなく、
関連商品も重要になってきます。
3のスポンサーですが、通常これはあまり期待できません。
実際に放送しているアニメのCMを見てもらえばわかるのですが、アニメのDVDやアニメキャラの出るカードゲームなどが多く、まったくの外部から広告料をもらっていそうなCMはなかなかありません。
さて、TIGER & BUNNYも他のアニメと同じくBD・DVDの売上は重要な要素です。
しかしTIGER & BUNNY1巻のBD、DVDの値段をチェックすると気づくことがあります。
通常のBD・DVDは6,000円程度、下手をすると初回限定版は1万円近くすることもあるのですが、TIGER&BUNNYはごらんのとおりかなり安いです。
これは通常2話や3話収録する場合が多いところを、1話のみ収録にしているのが一つのポイントです。
この内容を小分けにするのは、購入のハードルを下げ、購入者を増やす方法の一つです。
携帯コミックでコミック1巻ではなく1話ごとの販売にして100円を切る値段で提供するなど、この方法を使っている例はいくつかあります。
6000円だと高すぎて、買うという選択肢を最初から除外していた人でも、27分の映像特典に録り下ろしドラマCD、12Pのブックレットがついて2000円ちょっとなら買ってしまおうかな…と思っても不思議ではありません*3。
そして一度買ってしまえば、その後はすべて3話収録で1話換算すると1巻よりも安くなります。
初めてBDやDVDを買ってしまった人なら全巻そろえたくなるでしょう。
全巻1話収録でずっとお求め安い価格、というのも考えられますが、そうすると1クールものでも全12巻になってしまうのでさすがに本数多すぎ…という感じでしょうか。
昨年もWORKING!!が1巻を1話収録の低価格DVDで発売していました。
この形式は徐々に増えつつあり、今期では戦国乙女、緋弾のアリアなども同様の1話収録方式となっています*4。
この低価格で間口を広げる戦略は、作品内にスポンサー広告を入れているTIGER & BUNNYには上手くマッチすると思います。
広告は、触れる人が多ければ多いほど、触れる回数が多ければ多いほど効果的です。
DVD・BDの数が売れれば、自然と作品を見る機会が増え、広告の印象も残っていくことでしょう。
そしてすばらしいことに、ヒーローたちの背負う広告は視聴者に好感触のようです。
こういうスポンサーは下手をするとお金の臭いがしてが嫌がられる場合があります。
しかしタイガーアンドバニーは牛角のロゴをつけているロックバイソンが正式名称と勘違いされてるんじゃ?ってぐらいの勢いで牛角さんと呼ばれてたり、ペプシのロゴをつけているローズが独自のペプシCMに出演していて本編とセットで楽しまれてたり*5、好意的な意見を見ることが多いです。
バーナビーがスポンサーに金で体を売るといった内容の同人誌を見かけないことからも、T&Bの広告はお金飛び交う大人の事情というより、スポンサーを巻き込んだお祭りとして受け入れられているのではないでしょうか。
YOMIURI ONLINEの記事によれば今後スポンサーの追加や交代があるようです。
70社の応募を9社に絞って開始したところから見ると、スポンサーの追加・交代も視聴者は楽しんでくれるだろうと確信した犯行だと思われます。
そしておそらくそのとおりになるでしょう。
またすばらしい人気のロックバイソンのスポンサー牛角をはじめ、各企業がコラボキャンペーン・商品を出す可能性もあります。
Softbankからコラボ携帯なんてステキじゃないですか?
…あれ?…Softbankコラボ携帯?シュタ…げふんげふん、なんでもないです。
製作会社は広告料とBD・DVDの売上で収入が増え、クオリティの高い作品が作れる。
もし関連商品が出ればキャラの使用料が入る。
視聴者は広告料で潤った質の高い本編と、作品に連動したCMやスポンサーの移り変わり、関連商品といった楽しみが増える。
スポンサーも印象に残る効果的な広告を出せる、コラボイベント・商品などの展開も考えられる、などとかなり理想的なwin-winの関係を築いている作品に思えます。
私も視聴者としてセンスのあるギャグ、ちょっとした皮肉、そしてなにより熱い物語と演出とヒーロー魂を楽しみながら、アニメビジネスのひとつのあり方としても興味深く見ていきたいと思います。
(2013/5/1)
タイガーアンドバニーは2012年に劇場版1作目、劇場版 TIGER & BUNNY-The Beginning-が公開されました。
このときも独自の企画として、公式人気投票ベスト5のキャラが週替りで映画の最後に登場していました。
その他にもライブビューイングイベントなどテレビ、WEB配信、映画、イベントと様々な企画をしている作品というイメージがあります。
第二作、The Risingは公開が2014/2/8へと延期されてちょっと間が開くなーと言った印象です。
同じサンライズ制作のコードギアスが第二章公開まで1年、UCも最近は1年に一本ペースぐらいになっていて、もうちょっと早く公開してくれよーというのが本音でしょうか。
The Risingは完全新作のストーリーということなので早く見たいものです。
劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning- (初回限定版) [Blu-ray]
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*1:増田弘道『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)P22
*2:「アニメ化はビジネス、きっちり当てる」というスクウェア・エニックスのアニメビジネスでは原作の広告塔としての側面が出版社側から述べられています
*3:これは初回限定盤について。1巻の初回盤は現在はプレミア価格
*4:アリアの方はあまり安くなってませんが