語りたいテーマは2つ。
一つは信頼出来ない語り手。
一つは世間の常識。
信頼出来ない語り手
12巻を読み終わって、一番に思ったのは京介は信頼できない語り手だったかもということ。
信頼できない語り手 - Wikipedia
信頼できない語り手(しんらいできないかたりて、信用できない語り手、英語:Unreliable narrator)は、小説や映画などで物語を進める手法の一つで、語り手(ナレーター、語り部)の信頼性を著しく低いものにすることにより、読者や観客を惑わせたりミスリードしたりするものである。
自分は京介が桐乃に抱いていた大事にしたい、仲良くしたいといった気持ちは、「妹」へのものだと思っていた。
見返してみても、そんな感じに読める部分はいくつかある。
妹の考えていることが、俺にはぜんぜん理解できない。だけど、関係ないと思った。あいつが俺を嫌いでも、そうでなくても、一度自覚してしまった俺の気持ちは変わらない。
俺は、妹と、もっと仲良くなりたいのだ。
伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈8〉』(電撃文庫)P51
わざわざ『妹と、』と句読点を打っているのは強調しているようにも思う。
桐乃を妹としてではなく、女として見ているなら、『桐乃と、』とかになってもおかしくはない気はする。
一年前、俺を信用して、桐乃の趣味を見逃してやったってのに、その後俺たちがエロゲーみたいな関係になっちまっていたら――そりゃ、シャレにならんわな。
妹モノのエロゲーなんてブツを趣味としているという時点で、兄妹での恋愛願望があるのだと見なされても仕方がない。
お袋や親父としては、疑惑が出た時点で、超警戒するべき問題だよ。
俺たちにとっては突拍子もない勘違いでも、親たちにとってはそうじゃないんだ。
伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈10〉』 (電撃文庫)P20
ここも素直に読めば京介は桐乃と恋愛関係になることを考えていないふうに読める。
というかそれ以外に読めるのだろうか?
ちなみに10巻の該当場面は10月上旬の話。
表面上こんなこと考えながら、裏では桐乃と恋愛関係になろうとしていたら解離性障害疑ってもいいレベルじゃ? とか思う。
ただ地の文で言うとあやせラブはこれと同レベルだったような気もする。
でもそちらはなんとなく本気ではないだろう、とは思っていた。
だから京介は桐乃を女としては見ていないという先入観があったことは否定出来ないかも。
というか京介の桐乃への感情が恋愛対象としての感情だったとすると、桐乃が京介に御鏡を彼氏だと紹介してからの過剰反応や取り乱し方がしっくりくる。
個人的には父の娘への愛情だとわかるけど、兄の妹への愛情だとあんな反応あるか? って感じを受けてたから。
京介が信頼できない語り手だと想定して、先入観なしに、感情を排して事実のみを読むべきだったのかもしれない。
ただ京介は読者には誠実なやつだと思ってたんだけどなぁ…。
もしくは京介の考えが一気に変わったってことなのだろうか。
高校生は大人っぽいとはいえまだまだガキではあるし、京介は告白されれば有頂天になって何も見えなくなるやつではあるし、考えがころころ変わってもまぁ、まぁ、とは思う。
世間の常識と兄妹での恋愛
ここに結構踏み込んでてびっくりした。
10巻あたりから、京介のモテ期は始まったばかりだ! って雰囲気を感じてて、お、おうって思ってもいた。
あれは12巻での京介の気持ちの強さ、重さに繋げるためだったのだろうか。
卒業までの間こっそり桐乃と付き合うっていう短期間のバカのために、とてつもない代償を払ってるよね、実際。
常識的に兄妹で恋愛は無理だよねーってラストもアリだったと思う。
お前の気持ちには答えられない、で他のキャラとくっついても良かっただろうし。
最初から常識踏み倒して桐乃と付き合って、後は野となれ山となれという終わり方も出来たはず。
…できたかなぁ? わりと知名度のある作品で、それもアニメ作品で…ってヨスガノソラがあるか。
じゃあ全然問題ないな。
自分としては常識の枠内に収めるでもなく、枠外に飛び出すのでもない、常識の枠を広げようとした終わり方だなぁという印象。
今後同様の作品出てきた時に、一歩踏み出しやすくなったかもとも思う。
だからこそアニメもラストの方が地上波ではなくてネット配信なのかも。
これを地上波では多分放送しづらい…ある意味ヨスガノソラよりやりづらいと思う。
ヨスガノソラは世間とは関係ない二人の世界って感じ受ける。
あいつらの痛快な生き様は、安定志向の俺からすっと、どうにもこうにも向こう見ずで、リアルでやるにゃあキッツイように思える。情けないが凡人の俺には、選べる生き方じゃない。
だから痛快さなど度外視して、ギリギリまで現状の生活に固執するつもりだが――
それで無理なら覚悟を決めるよ。一つを守るために、多くを失う覚悟をだ。
伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12)』 (電撃文庫)P353
しかしちらりとネットで感想を見てみたけど、世間の常識では気持ち悪いとされてるオタクを肯定してくれる作品はOKでも、世間の常識では気持ち悪いとされてる兄妹の恋愛を肯定してくれる作品はありえない、って人はいるんだね。
同列に語れるものではない、って話なんだろうけど。
個人的にはこのラストの展開は結構好きだし、あやせのエピソードも相変わらず好きだった。
シリーズ途中、特に京介の桐乃や他の女の子に対する感情が掴めなくてもやもやするものはあったけど、終わってみれば面白い作品だった。
というかこの結末を知ってから読んでいたら、あんまりもやもやしないで読めたかもなーという、ネタバレ否定派の自分を揺るがす作品でもあった。