藤四郎のひつまぶし

プロの素人によるブログ

ブルーピリオド 47筆目ゆれる筆先

めちゃくちゃ良かったので。

特に自分が惹かれたのが、橋田の細やかな気遣い。
小枝ちゃんの感情が爆発した次の週、
小枝ちゃんに合作しないかと誘うところから。

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山口つばさ『ブルーピリオド』アフタヌーン2021年10月号P78-79

「この絵もうダメってこと?」って言う小枝ちゃん怖っ!
このときの小枝ちゃんは何が最後のひと押しになってもおかしくないぐらい追い詰められていたはず。
だからこのセリフに対して、目が泳いだり、少しでも言い淀んでたりしてたらアウトだったろう。

橋田は小枝ちゃんがどんな反応するか何パターンも想定してシミュレーションしていたんじゃなかろうか。
これが素だったら人間力が高すぎる。

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山口つばさ『ブルーピリオド』アフタヌーン2021年10月号P79-80

食い下がろう、反論しようとする小枝ちゃんに間髪入れずにこれ。
小枝ちゃんは自分の絵の良いところは見えなくて、悪いところばかり気になってしまう。
だけど周りの人に対しては良いところをしっかり見てるし、傷つけるようなことは言わない優しい子。

橋田はそんな小枝ちゃんのいいところを褒める。
そして自分が好きなものを乱暴に扱わないでという言葉を盾に、小枝ちゃんに自分の絵を大切にさせようとする。

単純な励ましは連発しても空虚に感じられてしまうし、心にもないこと言ってると見透かされたり疑われたりする。

だから褒めるのに続けて叱る。だけどこの叱り方は本質的には小枝ちゃんの絵が好きだと褒めている。
この回りくどさ。橋田はどんなふうにラッピングすれば自分の言葉が相手に届くかよく考えてるやつだと思う。

極めつけはこれ。

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山口つばさ『ブルーピリオド』アフタヌーン2021年10月号P86

自分の行動を根拠に、小枝ちゃんが特別なことを強調する。
小枝ちゃんは橋田のことが好きだけど、橋田はそのことも計算してこの発言をしていると思う。
それは決して計算だけの発言ではなく、絵を描く気がなかったのは本音だったろうし、本気で小枝ちゃんを救おうとしているし、そのためなら自分の気持ちも小枝ちゃんの気持ちも何でも利用してやろうと決めてのこの行動なんじゃないか。

その心遣いの積み重ねが小枝ちゃんに笑顔を蘇らせる。

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山口つばさ『ブルーピリオド』アフタヌーン2021年10月号P88

地雷原を少しのヒントから起爆させずに歩くように、喉に刺さった小骨を慎重に抜くように。
橋田の繊細な努力が満面の笑顔となって返ってくる。


その笑顔がすぐさま消えてしまうのが最高にいい。

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山口つばさ『ブルーピリオド』アフタヌーン2021年10月号P89

どんなに気を使っても大切に扱っても、他の人の何気ない行動一つで崩れ去ってしまう儚い人の心。

めったに見れない橋田の真顔も見られて最高によかった。

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山口つばさ『ブルーピリオド』アフタヌーン2021年10月号P90

八虎のフォローや橋田と小枝ちゃんの後日談、佐伯先生の後語りなどを加えても、結構ビターな雰囲気で終わった絵画教室バイトのエピソード。その最後に新学期と期待させるキャラの再登場をもってきて、明るい展開を期待させるバランス感覚もさすが。

受験編の目的に向かって突き進む感じも悪くなかったけど、大学に入ってからいろんな人、いろんな価値観に触れながら行く先を模索していく感じが最高に好き。
この絵画教室バイトは子供、親御さん、同僚、恩師と癖は少なめに思えるのに、一筋縄でいかない登場人物ばっかりで、おもしろいエピソードだった。